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クリエイティブ・カルテができるまで①:ケア職はクリエイティブかも?から始まった企画の趣旨と、アイディアが形になるまで #交換留藝 #クリエイティブカルテ

2021年7月から9月まで、ほっちのロッヂの滞在制作企画「交換留藝」の一環で小林三悠(こばやし・みゆき)さんと共に歩んできた本企画。今日から3回にわたる連載で、あらためてその背景とプロセスを振り返ってみようと思います。

1、あらためてクリエイティブ・カルテとは?

ほっちのロッヂのメンバが書く記録を見ていると、日々のケア活動の様子がメンバによって異なる切り口と語り口で綴られていて、まるで1つの小説みたいになっていることがあります。あまりにも物語が詰まっているので、お看取りになった方の記録を「絵巻物にしてご家族に贈りたいねぇ」と話し合ったこともありました。

時には面白おかしく、時には苦労して長い時間をかけて紡ぎ上げられていく日々の記録。この記録はメンバ同士でしか共有されないのですが、日々の記録のダイナミックさを、もっと沢山の人に感じてほしい。そんな思いから「クリエイティブ・カルテ」の企画ができました。

日々の記録に綴られたできごとは、「つらい、キツイ」と思われがちな医療福祉の仕事イメージではとらえきれない、人情味と感慨深さにあふれています。そんな日々の記録あり方は、ほっちのロッヂが立ち上がる前からずっと思い描いていた、私たちの思いにも通じていました。

ケア職はものすごくポップでクリエイティブ。やりがいがあって楽しい仕事だねっていうのを、子どもたちに見せたい。

本来、患者さんの情報をモレ・ズレなく伝えることが目的の病院のカルテ。この企画では、それでもカルテからにじみ出てしまう書き手の視点や表現に注目して、カルテを書くという行為をクリエイティブな営みの一つとしてとらえてみることにしました。

2、創作の課題と、アイディアが融合するまで

①2月末の某日 オンライン会議 1回目

みゆきさんとオンラインで会議する。これまでの活動と創作アプローチの視点についてじっくり伺い、これから挑戦してみたいことや、ほっちのロッヂの活動と重なる関心ごとを洗い出す。

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❝ほっちのロッヂのメッセージの1つに、ケアする・される関係じゃなく、好きなことでつながろうってあるじゃないですか。医療福祉の業界だとどうしても治す人/治される人っていう関係になっちゃうことがある。それだけじゃない関係をもうちょっと足していきたいんですよね(みゆき)❞

❝病児保育の場を説明するのに「親も子も、じぶんの回復力を信じて過ごす場所」ってあるのがすごく良くて!私も親子向けのワークショップで、赤ちゃんの動きを真似してみようっていうのをやったことがあるんですけど、「赤ちゃんって大変な動きしてるんだね~」っていう反応をよく頂きます。大人も子どもも、同じ視点に立つっていう発想が好きです(みゆき)❞

❝最近は緩和ケア、グリーフケアにも興味があるんです。悲しみ切れなくてどうしても残っているしこりを、身体表現としてどう扱ったらいいのかが分からなくて。これまでやってきたみたいに、(表現が)なめらかに進んでいくことに違和感を感じるんです(みゆき)❞


②3月中旬の某日 みゆきさん、初ロッヂ

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この日はほっちのロッヂの表現部の活動日。活動にやって来ていた「音が形に見える」高校生アーティスト・Tomくんに出会う。

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私も音が形に見えるの!良かった~、私だけが変なんだと思ってた!」と意気投合。こういう感覚を共感覚と呼ぶことも、初めて知る。

❝小さい頃から「音がしたら踊らなきゃいけない」って思ってて。電車の中のガタンゴトン、でも身体が動いちゃうみたいな(笑)。特に一時期、違和感のある音とか、不快感をもつ音に関心があって。そういう音にわざわざ近づいて行って、音を避けるように振付けも作っていたんです。でも、そういう音との付き合い方ってそろそろ限界だな~と思うこともある(みゆき)❞


③3月下旬の某日 オンライン会議 2回目

音と仲直りしましょう。せっかくなので、ほっちのロッヂのメンバがお手伝いします。メンバには「音が形に見えるダンサー」としてみゆきさんを紹介します。過去の作品を観てもらって、感想をもらう代わりに1対1で話して、カルテを書いてもらう。音が形に見えることをあーだこーだ言うプロセスの中で、音との新しい付き合い方を見い出せたら(エミリー)❞

❝ケアの現場でアート活動をしようとすると、どうしても「誰かのために」作品作りをしたり、ワークショップをしたりってなりがちじゃないですか。入院してる人のため、とか、利用者の方のため、とか。今回はみゆきさんが自分ごとに取り組むっていうのがいいなと思って(エミリー)❞

「ケアの現場でアーティストは自分ごとに取り組むべし」という対話の詳細は、過去のnote記事でも読めます(一部有料)☞

❝一応、自分なりの企画も考えてみました。嬉しい、楽しい日々を踊ろうっていうよりは、切り刻まれてしまった心や命との関わりみたいなものを、動きというか佇まいで表現したいな・・・(みゆき)❞

「自分ごとをやれったって、やっぱり社会とのつながりを持ちたいなぁ」と揺れるみゆきさんが企画方針を決めるまでの対話の詳細は、過去のnote記事でも読めます(一部有料)☞

3、企画の方針総まとめは、現場のメンバと一緒に

5月 メンバへの企画プレゼンとフィードバック

企画の方針が見えたところで、ほっちのロッヂメンバからのフィードバックをもらう。「かくかくしかじか、こういう企画をしたいと思ってるんだけど、いつも皆どうやってカルテを書いてるの?」と会話をしてみる。

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❝SOAPメソッドっていうのがあって(後日詳述)。医療者としては、最低限の医学的情報を誰が読んでも正確に伝わるように記録するのが鉄則。だから一言で状態が伝わるように、専門用語もいっぱいあるね。オリジナリティとか、クリエイティブとか、正直言うと無縁な世界(笑)(ゆう)❞

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❝本人が言ったこと、その時の表情と一緒に、自分の目から見た変化を書くようにしてますかね。なるべくポジティブな変化に注目するようにしてる。やりたいのは問題解決じゃなくて、その人らしい生活を実現することだから(さっこ、写真右)❞

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❝看護の記録は、次の人にやってもらいたいこと、知っておいてもらいたいことを中心に書いてますかね。訪問するごとに、話を積み上げていく感じで情報を整理してます(あやか、写真右)❞

❝お看取りの方の場合は特に人生会議(*)って大事だけど、改まって「人生会議しましょう!」と聞いて出てくる発言より、話の中でポロっと出てくることの方が、その人の価値観を表現してることってあるよね(なお、写真左)❞

(*)人生会議:
ケアを受ける人自身が大切にしていることや望み、どのような医療やケアを望んでいるかについて、自ら考え、信頼する人たちと話し合うこと。アドバンス・ケア・プランニング(Advanced Care Planning;ACP)の愛称。(ゼロからはじめる人生会議より)


❝本当はその人らしさを伝えるエピソードとか、「こんなこと言ってた」っていうことも細かく書きたい。でも時間がない(泣)。印象的な場面は、いつ思い返しても映像でバーッと思い浮かんでくるんだよね(ゆっきー)❞

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❝まちの人とは好きなことでつながろうっていうことで、その人の趣味とか特技も注目して見てるけど、ケア活動で関わる人に対しては、基本的には病の部分とか、障がいの部分を含めてアセスメント(判定)してる。このプロジェクトだと、基本的にはみゆきさんの好きなことをアセスメントするわけだから、面白そうかもね(にしかわくん、写真右)❞

こうして、企画「クリエイティブ・カルテ~ダンスを観る/診る/看るプロジェクト」がスタートしたのでした。

ほっちのロッヂャー第二期では、月々の連載・オンラインイベントにて、関連トピックの詳しいインタビューも行いました!☞

▶ 実際のところ、カルテってどう書いてるの?
@オンライン・ランチトーク:話し手/ゆう、ゆっきー、かれん
主なトピック:
いつも何を、どうやってカルテに書いてる?
~客観的 vs 主観的:自分の見たもの、どうやって伝える?
~やっぱりみんな、S(主訴)がお好き?
~なおさんの人生会議がスゴイ
(ほっちのロッヂャー第二期 6月のオンライントーク・話した項目より)

@インタビュー:話し手/なお、あやか、さっこ
主なトピック:
「好き」をいろんな関わり、角度から引き出していきたい
~カルテは誰かへのメッセージだったりするのかも
~”本人に行かない交換日記”を続けている感じ
~言葉だけじゃなくて、情景も書き留める
(ほっちのロッヂャー第二期 7月の読み物・目次より)

本企画は、《身体の音を聴く》音と動きのワークショップに結実。今後は場所を変えての実施も予定しています。ご注目下さい ☞

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

あの人に届くと、もしかするといいかもしれない、そんなことが頭に浮かんだならば、ぜひ教えて差し上げてください。

ほっちのロッヂにご興味のある方は、よければ、ご友人に直接話をしてくださったり、このnote記事に「スキ」、ツイッターなどSNSでシェアしてくださると、嬉しいです。

ほっちのロッヂ
info@hotch-l.com
書き手:唐川恵美子(エミリー)
デザイン:西川理奈(企画タイトルデザイン)、大隅康平(音舞寺タイトルイラスト)
企画協力:ほっちのロッヂのメンバ
文責:藤岡

(2021.10.6)