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【建築のこと、3】”人生フルーツ”しよう、を合言葉に建物とケアが進んでいっています。

私たち【ほっちのロッヂ】の活動が生まれる建物。どんな考えの元に設計されてゆくのだろう?

聞き手にブックディレクター/編集者の山口博之氏を迎え、共同代表・紅谷浩之(医師)と藤岡聡子(福祉環境設計士)、安宅研太郎、池田聖太(建築家)が語っていきます。

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【建築のこと、1】自分たちの場所を作っていったり、それを維持していったりする、本来の暮らしをちゃんと取り戻せる場所を作ろうと思います。

【建築のこと、2】凹凸の建物の内外で、小さい出会いの場を個々につくって、そこで活動も染み出し、通りかかった人もちょっと寄って立ち話をするような光景が生まれるように。

▶︎【建築のこと、3】”人生フルーツ”しよう、を合言葉に建物とケアが進んでいっています。

【食や文化のこと、1】手のひらで育てて食べる行為を、もう一度、みんなの真ん中に持ってこようと思っています。

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これからの私たちにとって豊かさの象徴というのは、ああいう暮らし方なんじゃないかなと思うんですよ。土を触り、自分で作り、自分で、自分の口から食べる。(藤岡)
自分でやるっていう行為自体を、高齢の方だけじゃなくて、もうみんなが失ってきている。(安宅)


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—【ほっちのロッヂ】を語る上で外せないのが、「人生フルーツ」という映画だと。

藤岡:安宅さんと初めてお会いした時、「・・・つまり、人生フルーツできる場をつくるということですね」と、お互いの共通言語を持つことができたので、そこから今までとても気持ちよく進めることができています。

「人生フルーツ」という映画は、建築家の男性とその奥さんの話です。私は両親を看取っているんですが、2人が生きていたら、こうゆう風に老いていってほしかったなあ、というイメージに重ねて観ていました。父親と、登場人物のお父さん。ちょっと口数少なくてでも頑固なところがあって。一方で私の母も、登場人物のお母さんと同じで、すごく庭仕事が好きで、上手に庭をつくってたんですよね。

「人生フルーツ」のように、最期まで土を触りながら、自分の役割がそれぞれ緩やかにあって、おいしいもの食べて、一つ一つには小さなこだわりがあって、大きすぎない平屋に住んで。なんだか、それを観て「豊かだなあ」と。

私は、これからの私たちにとって豊かさの象徴というのは、ああいう暮らし方なんじゃないかなと思うんですよ。土を触り、自分で作り、自分で、自分の口から食べる。

「人生フルーツ」の撮影地はいわゆる完全に田舎、というわけでもないんです。だからつくれるはずなんですよ、視点を変えれば。私をそこを気づかせてもらった部分かなぁと。実はすごく特別なことじゃない。私たちがアウトソースしてるものを、彼ら彼女は自分でやっているだけ。視点の切り替え方。そこが一番大きかったですね。やってないだけか、っていうことにすごく焦りと気づきをもらうっていう。

—(【建築のこと、1】自分たちの場所を作っていったり、それを維持していったりする、本来の暮らしをちゃんと取り戻せる場所を作ろうと思います。)でも話が出た、「手をかける対象があることは豊か」に通じる?

安宅:同じですよね。勇気をもらえるのは、「人生フルーツ」を始めたのが、お二人が60歳ぐらいで、亡くなったのが90歳ぐらい。そこの30年ぐらいの間に、造成して何もなかった土地に、畑と果樹や雑木を植えて、森みたいな環境をつくってしまっている、というところですよね。

(登場人物の建築家が)自分が主導して地形に沿って山を残しながら開発をしようとした計画が採用されなくて、結局造成されてしまった。森を失ってしまったところを、自分で買い取って自ら回復させていく。大学の先生を引退してから取り組んで、最終的に映画になるくらいの環境を創り出すっていうのが、いいですよね。

敷地の中には、こういう野菜や植物が植わっています、という小さな看板があるんですが、そういういろいろなものを小さなアトリエで手作りされていて。それがかわいらしく、ひとつひとつデザインされている。果樹からジャムをつくったり、畑に大麦を植えて、収穫して、、煎って、麦茶にしたものを孫に送るというようなことをずっと続けていて、そういうすべてが豊かだなと思ったんですよね。

実は、僕もこの7、8年、梅干しと味噌と梅ジャムを作ってみてるんです。買えば済むけど、作った方が美味しいし、出所もわかって安心だし、何より楽しい。そういうことをもっと拡大して広げていったものが、今【ほっちのロッヂ】で目指してるものですよね。本当はもっと自分の生活、仕事の仕方もそういう風にしていきたいなと。うちの奥さんとも、いずれは”人生フルーツ”したいねって、よく話しています。

自分でやるっていう行為自体を、高齢の方だけじゃなくて、もうみんなが失ってきている。だから例えば外から給食を導入するにみたいなことはせずに、毎日、自分たちで真ん中のキッチンでご飯を作って食べる、そういうこともそう。そういう風に暮らしを取り戻していくのがいいんじゃないですかね。

—外に頼ってるうちはここに継承するものがないんですね、こっち側に持ってこないと。

安宅:そう、それが文化を継承することにつながるんだと思います。元気だけど楽しいから(やることがあるから)来る近隣集落のお年寄りもいるし、そのひとたちから様々なことを学ぶことが継承につながると、思いますね。

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(この語りは、2018年8月31日に都内にて、ブックディレクター/編集者山口博之氏を聞き手に迎え、インタビューを行なった内容を編集しています。)