見出し画像

ほっちのロッヂ×アート・トーク#2「人生会議を文化にする」~トーク・アーカイブと写真展「ぐるり。」開催のお知らせ

ケアの現場と隣り合いながら文化芸術・アート活動に取り組む「ほっちのロッヂの文化企画」。

ケアの現場でどういう風に実践を積み重ねているのか。
ケアの現場でアート活動に取り組むことにはどんな意味があるのか。

私たちの活動をリアルタイムでお伝えしながら、全国各地・世界各地の取り組みとつながるトーク企画です。第1回のアーカイブに続き、今日からは第2回のアート・トークの模様を動画ダイジェストと共にお届けします。

人生会議とは?
人生を生きる上で自分が大切にしたいこと、望んでいることを話すプロセスのこと。英語圏ではACP(Advance Care Planning;アドバンス・ケア・プランニング)と呼ばれる。特に、医療の選択肢が多様化し、人生の最期をどのように過ごすかにもいろんなオプションがある中で、自分がどのように意思決定をして行くか、特に自分が意思決定をできなくなった状態の時に、どういった状態を望むかについて話していくプロセスのこと。

gururi_プロフィール

ゲスト①尾山直子(おやま・なおこ)さん⇒今回記事
1984年うまれ、東京在住。高校で農業を学び、その後看護師の道へ。現在は桜新町アーバンクリニック 在宅医療部に勤務。訪問看護師として働きながら、京都造形芸術大学 美術科(写真コース)に通学。
卒業後は、かつて暮らしのなかにあった看取りの文化を、現代に再構築するための取り組みや、老いた人々との対話や死生観、人が人を看取ることの意味を模索し、写真作品制作を行っている。

画像1

ゲスト②神野真実(じんの・まみ)さん
大学時代、祖父が亡くなり、耳の不自由な祖母(当時86)が引きこもる姿を目の当たりにし、社会包摂のあり方に興味を持つ。
現在は医療・ヘルスケア業界に身を置き、市民・専門家参加型のデザインアプローチで、認知症の人が自立した生活を送るための環境づくりや、在宅医療患者と家族・医療者が医療やケアについて対話をしやすくするツール・環境づくりを行う。

―― 人生会議というと、いざという時のことを話しておく家族会議みたいな感じで、堅苦しいイメージを持つ人も多いかなと思います。今日は、人生会議をもっと自然に、気軽な形で実践するアイディアに注目してみたいと思います。

尾山)私からは、写真展「ぐるり。」のことをお話させていただきたいと思います。

この作品展では、えいすけさんという男性の、人生の最終盤に訪れた暮らしの風景を撮影しています。展示では写真だけでなく、えいすけさんが実際に発した言葉や、担当の看護師や介護士が申し送りをする連絡ノートに書き残してくれた言葉などを、8mくらいの蛇腹折りの紙に印字し、空間を演出しています。

―― 撮影に入ったきっかけは?

もともとの出発点として、昭和20年代までは8割を超える人々が家で最期を迎えていたのですが、現代ではそれが逆転して、8割を超える人が病院や施設にその場を移しているということがあります。いわば「老いや死」というものが、多くの人々の暮らしの中で、線ではなく点としての出来事になっているんですね。こうした出来事について、昔はことばや知識だけではなく、体感としての学びがあったのではないかと思うんですね。

画像4

撮影したきっかけは、えいすけさんの担当看護師が、多数の介護士さんやケアマネさん、色々なスタッフがケアに入る中で、えいすけさんがどういう生活を望んでいるかというのをうまく言葉で伝えられず、悩みを抱えていたことでした。そこで私は、彼女に写真で伝えるという試みを提案しました。

医療の側面だけからではなく、医療以外の領域から見ることで、できごとがもっと多層的に見えるのではないか、それによって色々な表現が生まれ、伝わりやすくなることもあるのではないかと考えました。


―― これまでの展示ではどのような反応がありましたか。

尾山)1回目は世田谷区の清川泰次記念ギャラリーというところで、ちょうどえいすけさんが亡くなって1年後の時期に開催しました。来場した方は、えいすけさんの写真や言葉を合わせ鏡のようにして、自分ごととして、または大切な人と重ね合わせて考える機会を得ている印象がありました。

印象的だったエピソードとしては、ふらっと訪ねてきてくれた60代ぐらいの男性と、80代ぐらいのお母さまです。お母さまが先導するように会場を周って、息子さんはその後ろで目をうるうるさせながら歩いているんですね。きっと、お母さまが同じような状況になっていくことを想像したんだと思います。一方のお母さんは堂々として、「私は家にいたいからね」って息子さんに何度か言っていて。写真を見ながら言うことで、すごく伝わっていた気がします。人生会議ってこういうことだろうな、と。


2回目の展示は、世田谷ものづくり学校というところで開催しました。ここは昔の池尻中学校を改修した施設で、カフェやパン屋さん、オフィスや工房などに並んで、子どもたちの居場所となるスペースがあったので、子どもたちが「老いと死」というテーマに出会うきっかけにもなっていました。

画像4

あるとき、子どもがちょっと遠巻きに、こわごわと見つめていたのに、翌日もう一回やってきて、しっかり見てくれたことがあって。怖いけれども見てみたい、そこで勇気を出して入ってきて、体感してくれる子どもたちも多くて、いい機会でした。

▶各展示のレポートは、WEBサイトからも読むことができます。


―― 写真展を通して、どのような成果がありましたか。

尾山)臨床現場にいる私たちは、老いた人たちから知らず知らずのうちに学んでいることがあります。それを私たちが表現して伝えていくことで、多くの人たちに「老いと死」について思考する機会を作り出すことができると思います。2回の展示では私自身もたくさんのフィードバックをもらって、視野を広げることができました。

人生会議というと、人生の最終盤にさしかかった人たちが、その状況になって初めて関わることが多いイメージです。でも、あらゆる社会的な背景や価値観を持つ人たちが分野を超えて考えれば、もっと面白いものができるんじゃないかなというふうに思います。


▶ディスカッション部分の動画アーカイブはこちらから視聴できます。字幕をオンにすると字幕が表示されます。

(報告終わり)

今回のトークゲストである尾山直子さんによる写真展「ぐるり。」を、ほっちのロッヂで開催します!ゴールデンウィークの良いお日柄に、ぜひお出かけください。

尾山直子写真展「ぐるり。」
日時:
4/30(土)~5/14(土) 9:00-17:00※休廊日なし
場所:ほっちのロッヂ(軽井沢町発地1274-113)
作家在廊日:4/30(土)~5/3(火)、5/14(土)
※入場口は、ほっちのロッヂのアトリエ側にあります。建物向かって右側へお回りください。
※作家在廊日以外は、ほっちのロッヂのスタッフがご案内致します。
※作品撮影OKです。日中は他の利用者様もいらっしゃいますので、建物内全体の撮影はご遠慮ください。

「えいすけさん」と呼ばれるその人と、そのぐるりを囲む家族や看護師、家の佇まい。かつては暮らしの中にあった老いと死を、文字通り「ぐるり。」とロッヂをめぐりながら体感する写真展です。

#もっと気になる方に

ほっちのロッヂ共同代表・紅谷浩之共著
『わたしたちの暮らしにある人生会議』(金芳堂、2021年)
過去のアート・トーク アーカイブ

ほっちのロッヂ
info@hotch-l.com
書き手・動画編集:唐川恵美子(エミリー)
写真:尾山直子
文責:藤岡聡子